「あ、痛っ」
何か痛いなと思ったら、右手の中指の関節が割れて血がにじんでいた。
もう、この季節が来てしまったのか、とため息を付きながらハンドクリームに手を伸ばす。
仕方がないのだ。
お湯を使い始めると、絶対に手荒れする。
ギリギリまで水を使って洗い物をするが、冬に近づくにつれ水の冷たさは尋常ではないし、脂っこい料理を作ったフライパンはお湯でないと落ちない。
一度ひび割れてしまった指は治るのに時間がかかるので、ここから酷くならないような工夫とメンテナンスを続けていかなければならないのだ。
ハンドクリームは1日に3回は塗る(これでも少ない方)。日中の事務仕事やらで使うパソコン作業では、綿手袋をして手を保護する。これで悪化するようであればラップを巻く。
そんな手のケアをしながら、今時分に思い出すのは祖母のことだ。
小4の時母が亡くなったのだが、闘病生活も合わせるとその何年か前から祖母が料理を作っていた。山形出身の祖母は、秋頃になると芋煮を作る。他にも節句には笹の葉で包んだ笹巻きや、時には枝豆の味噌汁なども食卓に並んだ。郷土料理だったらしい。菊のおひたしやお土産のしそ巻きも食卓に出てきたっけ。
祖母は朝食に必ず味噌汁を作っていた。パンやコーヒーなんて朝食はない。ご飯、味噌汁、漬物。たまにスクランブルエッグ。
そのせいか、学生で一人暮らしを始めた時は美味しいパン屋とカフェを探すのが楽しみだった。
*
朝6時何分か。スマホにセットした目覚ましが鳴る。ここから起きるまで5分スヌーズとの闘い。冬ほど暗くないので日は出ている。
冷えないようにユニクロのボアフリースの上着を着て、毛布スカートをはいて、もこもこの靴下を履いて台所へ行く。
数年前に買ったお気に入りの木のまな板で、半分寝ながら弁当作りを始めたらあとはこっちのもの。
木のまな板は、トントンと包丁の音が心地良い。
朝ごはんまで作り終わる頃には、外から登校する子供たちの声が聞こえてくる。
子どもと一緒にご飯を食べながら、祖母の味を思い出そうとしたが、もう忘れた。
9月に亡くなって、9年になった。
せめて、子どもたちが好きな義母の味は学んでおこう。
昨日と今日と明日と。日々の小さな幸せに感謝して❤️
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