太ももが痛い、心臓がばくばくいっている...。大丈夫、脳に酸素は巡っている、と思う。
歩き始めは体力もあるが、さすがに登りばかりだと体は重く、筋肉に負荷がかかっているのを感じた。
「ちょっと休憩しよう!」
一緒に歩く夫を止めて、バックパックからスポーツドリンクを取り出し、少しずつ飲む。一気に飲まないのは、体に染み渡らせたいのと、万が一水分が無くなったら山で買い足せないからだ。
ふと眼下に望めば、登ってきた山の斜面が続いていた。晴れた日は、深い緑の間から光が差し込み、草木の緑を色鮮やかに照らす。
風がさぁっと吹いてきた。
「ふぅ...。オッケー、行こう」
首に巻いたガーゼタオルで汗をぬぐい、木々の香りを肺にいっぱい吸って歩き出す。
バックパックにつけた熊よけの鈴が、リンと鳴った。真鍮の音は、森の中でよく響く。
今年、登山を始めて尾瀬に行く。そう決心してから今まで、5回山を登った。初めの頃は30分近所を歩くだけで、股関節やふくらはぎを痛め筋肉痛。今は山に登って降りて、2時間ほど歩けるようになった。
とにかく、楽しい。
どんな山に行こうか、何を持っていこうか、登るとどんな景色が見られるのだろうか、遠足前の子どもに戻ったようだ。登山グッズを眺めるのも楽しい。すれ違う人や道行く人の装備も、ついつい目に入ってしまう。
もともと、海より山の方が好きだ。春は桜や新緑が芽吹き、夏は涼しく秋は紅葉を楽しみ、冬は雪に覆われ白と茶色の世界が広がる。ここで温泉に浸かりながら季節を感じるのが、長年の癒しであり楽しみだ。
ハイキングや登山は、たしか中学生の学校行事が最後だったはず。登ったときは、ただ歩いて疲れるだけの山登りの何がいいのか!もう二度と登らない!と誓った。でも子どものときの誓いなんて、破るためにあるのかもしれない。
最近登った山は、群馬県の霊山嵩山(たけやま)。
頂上の岩には祠がある。ガードレールなんてものはない。遠くには、榛名山をはじめとした山々を見渡せる絶景。しかし遮るもののない頂上は、風が吹くだけで足がすくむ。設置された吹き流しの揺れる金属音は、耳から離れなかった。
ところで、頂上付近の開けた場所では、軽食を食べている人が多い。
なんて美味しそう...。個人的には、ちょっと塩っぱい具で、梅か明太子のおにぎりが最高だと思う。
頂上で景色を堪能した後は、下山だ。登った後は疲れているはずなのに、帰りの足は軽い。「もう1回登れそうだよね」と軽口を叩きながら歩くが、気の迷いだろう。
登るときも降りるときも、向き合うのは自分の体だけ。足を止めるも進むも、どんなペースで歩くかも自分次第。途中息切れする前に、止まってしっかり休む。余計なことを考える暇もない。
自分の体を使って、汗だくになりながら入り口まで戻ってきた瞬間は、最高だ。
そのうち飽きるかも?想像できない。私の偏愛は始まったばかりである。
昨日と今日と明日と。日々の小さな幸せに感謝して❤️
Discord名:沙結月(さゆづき)